下級てき住みやかに

別れた女房と生き別れた娘と 白髪の老人よ何を思ふ

  • 2019.04.07
別れた女房と生き別れた娘と 白髪の老人よ何を思ふ

桜の開花前線が発表される頃、必ず一人で向かう場所がある。

今年も変わらず、公園に落ちている桜の花びらが付いた枝を握りしめ、年に一度のお決まりの所作を貫いていく。

▼iPhone X max 意外にボカせれた…。

平成時代が幕を開け、数年経った間もない頃、幼なじみであり、そして恋人だった彼女が、白血病により16歳の若さで、この世を後にした。

ちょうど開花前線が発表された頃だ。

今年も彼女が眠る高台のお墓へ一人向かう。

既に個人の行事化された欠かすことのない、春の訪れを告げるルーティン。

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老人よ何を思ふ

小さな丘を登りきると、小綺麗で現代風の “アキ” のお墓が見えてくる。

彼女は、生まれた時に、既にお隣さんで、兄弟のように育った同級生。

そして恋人だった。

世間体として捉えられれば、全くの赤の他人ではある。

しかしながら、既に年老いて、足が不自由で施設に入居している彼女の母親との約束を経て、自らお墓の管理人をかって出ている。

 

 

人は出逢いの中で、接した時間に比例して想いを募っていく。

良きこと悪きこと、合算された総合判定の中で人格のイメージが蓄積されていく。人に対しての悪口や憎しみは、自分に対してのデメリットしか生み出さないことを知っている。

匿名であろうが、意識は習慣となり、やがて人格をも形成していく。

だからこそ大切にしていきたい。

”毒は吐くものではなく、捨てていくもの”

そう思えるよう、心を穏やかに、気持ちを初期化するために訪れる。

桜の咲く頃は、彼女の命日に被るため、お墓参りと掃除を兼ねている。汚れた箇所は、丁寧にメラミンスポンジで磨いては綺麗に仕上げる。

そして、桜の付いた枝を飾りながら、缶コーヒーを飲み、心を穏やかにするよう気持ちの整理を行う。

自分が結婚してもなお、何十年も欠かさずに同じことを繰り返してきた。

今年は明らかに様子がおかしいと思えた。

既に、お墓は綺麗に清掃された形跡があり、立派すぎるくらいの花も供えられていた。

はて..。(・・? 誰でしょ。
自称管理人ではあるが初めて見る。

このお墓には、彼女以外に納骨はされていない。

いつもと違う感じがあると、なんとなく気味が悪い。そう思いながら、缶コーヒーを飲み、その場に座り込んでいた。

しばらくすると、遠くの方から、“苗字”ではなく“名前”で呼び掛けられる。

『〇〇 君だよね。久しぶり。』白髪の紳士は、にこやかに話し掛けてきた。

歳を積み重ねてはいるものの、直ぐに、誰だかわかった。紛れもなくアキの父親である。

葬儀以来の数十年ぶりではあるが、何千回と行き来していたお隣さん。忘れるはずもない。

 
 

彼女の両親は、小学生の時に離婚をしている。母親がアキを引き取り、父親は家を出て行った。

あの時は、何もわからず、押し入れの中で二人で泣いていた記憶がある。

今に思えば、何処にでもある男と女のラブゲーム。彼女の父親は、新たな女性と結ばれて、やがて、東京で新生活を始めたことを知る。

白髪の紳士は70歳を優に超えてはいる。退職したとはいえ、ピシッとしたスーツを纏っている。

いつかはクラウン世代”の、その白髪の紳士は、新型 CROWN RS Advance(600 万)に乗って、優雅に帰郷を果たしている。老人ではあるが、明らかにダンディズムのような風格があるように思えた。

事の経緯を淡々と、お墓の前で聞いている…。

・ 先ずは、娘のお墓を綺麗にしにきたこと。
・ 再婚した奥さんは数年前に他界したこと。
・ 余生は生まれた地で過ごしたいということ。

『ところで、〇〇君。家内が、今、どこに住んでいるかを知らないか?』

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唐突な質問だった。元の嫁が、どこに住んでいるのかを知りたいらしい。

決して駆け引きで、揺さぶりをかけるわけでもなく、強制的に回答を求めるそぶりもなく…。

老若男女であろうが、いかなる場合でも、他人の夫婦間に関与しない方針ではいるが、すんなりと知っていますと返答をした。

個人の駆け引きや感情論は、真っ先にどうでもいいと思えた。

”死人に口なし” 彼女(アキ)ならば、どう返答したいのかを慎重に考える。代弁者として述べる。

二人分の人生を生きると決めた。何がどう変化していくのかもわからない。でも、生きているからこそ決断をしていく。生きているからこそ…。

 

現在は、車いすの生活を送り、施設に入所していること、世話をする親族もいないことを告げる。

『そうか、ありがとう。』白髪の紳士は、ゆっくりと丁寧にお辞儀をした。

人の死は、時間が停止することを意味すると思う。

募る全ての想いは、停止して進むことはない。

人の生は、時間が進むことを意味すると思う。

生きる上で、感情のジレンマはある。良いことも嫌なことも訪れる。時間が進むということ。生きているということ。ただ、二人の老人の行く末を、なんとなくではあるが、天に任せてみたいとさえ思う。

余計なお世話ではあるが、彼女(アキ)が最後に望むことなのかも知れないと思えた。例え、誰を敵に回したとしても…。

”別れた女房と、生き別れた娘と”

白髪の老人よ、今、何を思ふのか…。

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